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第5話 朝ごはんはパンケーキ

ผู้เขียน: 西しまこ
last update วันที่เผยแพร่: 2026-06-09 19:00:26

 千颯ちはやとの生活はとても静かで、そして快適だった。

波瑠はるさん、ごはんですよ」

 毎朝、千颯にそう言って起こされる。

 襖越しに聞く「ごはんですよ」が嬉しくてたまらない。

 毎朝千颯に起こされるのに慣れてしまって、波瑠は目覚ましをかけることをしなくなった。

 ごはんですよって起こされるのって、なんて甘美なんだろう……!

 波瑠は「ごはんですよ」にうきうきしながら、台所に行く。

「今日はパンケーキです。波瑠さん、好きでしょう?」

「パンケーキ! 好き!」

 波瑠が席につくと、千颯はパンケーキの乗ったお皿を波瑠の前に置いた。小さなサラダもあり、マグカップにはコーヒーが淹れられた。二枚重ねのパンケーキにはメイプルシロップがかかっている。

 完璧だ!

 波瑠は拍手したいような気持になりながら、ナイフとフォークを手にした。

「パンケーキはバターで焼いたので、敢えてバターは乗せていません。どうぞ」

「おいしそう! いただきます!」

 ぱくりと一口食べると、口の中にバターの味と香りがふわっと広がった。バターの味がちゃんとする! おいしい! 生地はほんのり甘く、食べると口いっぱいに優しい甘味が広がった。メイプルシロップがかかっているところは、濃い甘い味がして、それもまたおいしかった。

「どうですか?」

 千颯が心配そうに訊く。

「おいしいよー ふわふわ~」

「ヨーグルト、入れたんですよ」

 千颯は嬉しそうに微笑んだ。

 波瑠は社会人になってから、朝ごはんはカロリーメイトを食べればいい方で、お菓子を食べるくらいですます日やコーヒーだけの日も多かった。

 きちんと坐って食事をとってもいなかった。

 祖母が生きていたときは、きちんと食卓について祖母と一緒にごはんを食べていたが、祖母が亡くなって、そういう習慣を次第に忘れていっていたのだ。

 私、どうして忘れていられたんだろう? おいしいものを誰かと一緒に食べるのはこんなに幸福なのに。

 波瑠は思う。

 恋人がいないと生きていけないような渇望もない。

 今は毎日が幸せだった。

 おいしいもので満たされていた。

 どうして黒岩みたいな男とつきあっていたんだろう?

 おいしいものを食べていれば、あんな男なんていらないわ。

 波瑠は少し前の自分が全く信じられなかった。

 千颯は波瑠の前で、やはりおいしそうにごはんを食べる。そうして一緒に食事をする相手があるのも、とてもいいものだと波瑠は思っていた。

 千颯の料理は特別凝ったものではないが、心がこもっていて一生懸命作っているのが分かる、あたたかいものだった。千颯が料理をしている気配を感じるのも好きだった。実のところ、「波瑠さん、ごはんですよ」と声をかけられる前から、波瑠は目を覚ましていて、台所の幸せな音を聞いていた。

 包丁の音、水を流す音、何かを煮たり焼いたりする音、食器を並べる音。

 台所の幸福な音を布団の中で聞き、そしてにおいをかいで、朝ごはんが何かを想像するのが、今の波瑠には何よりも楽しいことだった。

 パンケーキの今朝は、甘い香りが漂って来て、なんとも言えない期待感で胸がいっぱいになった。波瑠はパンケーキが大好きだった。

「ねえ、このパンケーキ、ホットケーキミックスじゃないわね。味が違う」

「ホットケーキミックスじゃないですよ。薄力粉とベーキングパウダーと卵とヨーグルトと牛乳を混ぜて焼いています」

「だから、この味! 幸せ。メイプルシロップが合うわ。いつもありがとう、千颯くん!」

「どういたしまして。……僕こそ、ここに置いてもらえて、ほんとうにたすかりました」

 波瑠は千颯と顔を見合わせて、ふふふと笑った。

 すると、足元で「にゃー」という声がした。

「キャンディ! あなたもいてくれて嬉しいわ」

 ともかく、毎日おいしく幸せなのである。

 ごはんを作ってもらう代わりに、波瑠は千颯を家に置いてあげることにした。

 波瑠は、家賃よりも食事を作ってもらう手間賃の方が高い気がしたが、千颯は相殺でいいと主張した。また、光熱費に関しては、以前と比較しなくては分かりづらい部分があり、差額がさほど高額でないなら、光熱費は家賃に含むという考えにしましょう、ということになった。

 千颯は遠慮したが、お金もないらしく「すみません、ありがとうございます」と言いながら受け入れた。

「いや、私は足りないと思うのよ」

「そんなことないです」

「いやいや、ほら、料理代行の金額って、一時間三千円くらいよ」

 波瑠はウェブページを見せながら言う。

「……僕は仕事として料理をしたことはないですし。……ほら、安いのもありますよ。ここは一時間千三百円くらいです。僕、プロみたいな料理は出来ないから、あまり高く設定されてもプレッシャーになります」

 千颯がそう主張し、この辺りの家賃も鑑みて、食費を波瑠が負担する形で収まった。

 つまり、千颯は食事を作り、波瑠は食費や光熱費を払う。

「ほんとうにいいんですか?」

「うん。千颯くんが馬鹿みたいに食べるんじゃないなら」

「そんなに食べません。むしろ少食だと思います」

「ならいいわ。千颯くんはここに住んでごはんを作り、食費と光熱費は私が負担する、と。掃除は当番制にして、洗濯は各自ですればいいわよね。そうそう、お皿の片付けは私がやるね」

「お皿の片付けは僕がやりますよ」

「いやいや、私が」

 結局、お皿は使ったものを各自洗い、鍋類は千颯が洗うことになった。

 波瑠は、実際ほんとうに生活し出したら、どうなのかな? と思わないでもなかった。口先だけでごはん作ってくれないとか散らかしやで掃除はしないとか――ほんの少しだけ不安に思う部分もあった。

 しかしそれは全くの杞憂であった。

 ごはんの支度は朝晩きちんとしてくれるし、掃除に関しては波瑠よりもきれい好きなくらいだった。

 そしてまた。

 千颯はいるのかいないのか、存在をあまり主張しない性質だった。

 いつも静かにそっとそこにいるような感じ。

「植物みたい」

 波瑠は、千颯のことをそう思っていた。

 まるで、植物みたいに静かにそばにいて、そして波瑠の感情を読み取り、おいしいごはんを作ってくれる。

 ……なんて、居心地がいいのだろう?

 波瑠はそのことにひどく安堵した。

 最初に千颯を寝かせた(そして波瑠も寝てしまった)、玄関を入ってすぐの和室を千颯の部屋にした。縁側に面していて陽当たりもよく、庭の花や樹木を見ることも出来る、大変居心地のいい部屋だった。

「こんな素敵な部屋……いいんですか?」

「うん、いいのよ」

 波瑠は、かつてこの部屋に住んでいた祖母を思った。

 いいよね? おばあちゃん。

 だって、ごはん作ってくれるんだよ!

 いいよ、という祖母の返事のように、庭の紅葉が揺れて赤い葉を散らせた。

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